無職の夢日記

夢日記

崩壊した世界で橋をかける夢

☆夢の結末☆

使命を果たし、人類の歴史とともに眠る

 

☆夢の内容☆

 淡いパステルブルーの海中で、私は目覚めた。誰人にも汚されたことのない、どこまでも透き通る美しい水の煌めきが視界いっぱいに広がっていた。

 

 見渡すと、海の底に薔薇が咲いているのが見えた。青い薔薇だった。自然界では決して生まれることのない青い薔薇。人類が遺伝子操作によって生み出した歪な生命。海底に沈んだそれを見て、私はとうに人類が滅んでいることを思い出した。

 

 体がだんだんと海に溶けていく。海水の温度と私の体温がまったく同じせいだ。自分の体と水の境界線がわからなくなる。もはや、私には上下左右の感覚もなくなっていた。

 ふと、私の顔の前を泡が横切っていった。水中に放出された空気の塊が泡となり、空へ行こうと上へ上へと登っているのだ。私は泡を追って泳ぎ始めた。海から生まれた生物たちはやがて大地を目指す。私は生命の進化の追体験をしているだった。

 

 海面に顔を出したその瞬間、世界が広がった。見上げると、雲ひとつない青空がどこまでも広がっている。海上に景色を遮るものはなにもない。どこまでも続く海の先に水平線が見えた。

 振り返ると、すぐ先に陸地を見つけた。真っ白な砂浜が太陽の光を反射して眩しく光り輝いている。あそこへ向かわなければならない。あそこへ行き、使命を思い出さなければならない。私は誰に言われるでもなく、そう感じた。

 

 海から上がり、砂浜へ降り立つと心地よい風が体を撫でた。太陽の優しい光が濡れた体を照らし、心地よかった。

 砂浜にはなにもなかった。いかなる生物の気配もなく、寄せては返す波の音が一定のリズムで響き続けるだけであった。

 海とは反対方向の、陸地の方を見やるとなだらかな丘が続いていた。丘は青い芝生に覆われている。背の高い植物はなく、見晴らしが良い。砂浜の純白と芝生の緑のコントラストがとても綺麗だった。

 

 丘の先に、私の使命がある。

 

 丘を進んでいくと、巨大な崖が現れた。対岸まで数百メートルはある巨大な崖だった。崖には橋がかかっていたが、途中で崩れている。橋の、崩れているところまで行くと、大人くらいの大きさの石が置いてあった。墓石である。

 所々崩れ、苔で覆われたその姿から、何世紀も前に置かれたものだということがわかる。私は墓石の前に写真が置いてあることに気づいた。写真を見ると、軍服の青年が険しい表情で写っている。その顔には見覚えがあった。その青年は私自身であった。

 

 私の使命は崩れた橋を蘇らせることだった。

 

 私は墓石の前に座り、座禅を組んだ。頭の中で、崩れた橋の断面から大樹が生えてくる映像を強くイメージした。すると、橋の断面から小さな木の根が生えてきた。木の根は実にゆっくりと対岸に向かって伸びていった。私は座禅を組んだまま歯を食いしばり、体の全エネルギーを木の根に注ぐイメージをした。私の生命力を木の根に注いでいるのだ。私の体から力が抜けていくにしたがって、木の根はどんどんと成長し、大樹となり、向こう岸へと伸びていった。

 疲労で私の体が他に伏せ、動けなくなったころ、ついに大樹は向こう岸にたどり着いた。橋が完成したのだ。私は使命を果たしたのだ。墓石の写真を見ると、先ほどまで険しい表情をしていた青年はいなくなっていた。

 

 私は橋の向こうへ向かった。重い脚を引きずり、橋の上を歩いた。大樹は頑強で、私ひとりが渡ったところで微塵も揺れることはなかった。ふと、下を覗くとはるか遠くに海が見えた。橋の標高がとてつもなく高いのだ。しかし、落ちて海面に叩きつけられる恐怖はなかった。私の体は既に消えかけ、じきに完全に消えてなくなることがわかっていたからだ。仮に落ちたとしても、海に叩きつけられる前に私の体は霧散して消えていくだろう。

 

 対岸にたどり着くと、湖が広がっていた。綺麗な湖だった。透明性の高い、エメラルドグリーンの水面が揺れている。水中を覗くと当然のように、底に青い薔薇が咲き乱れていた。

 湖の中央には遺跡があった。一軒家ほどの大きさの建物が、水面の上に直接建っているような格好である。私はそこに向かうことにした。そこで人生の終わりを迎えることにしたのだ。

 湖に入る時、自分の体の異常に気がついた。いつの間にか、両腕が無くなっていたのだ。私はショックを受ける代わりに小さく笑った。失笑でも冷笑でもない。使命を果たした達成感からの笑顔であった。

 遺跡の外壁にたどり着くと、一部、崩れている箇所を見つけた。瓦礫の間からは光が漏れていた。黄金の光だ。今まで見てきた海や草木の輝きとはまるで違うギラギラとしたその光に、懐かしい人間の俗っぽさを感じた。瓦礫をどかし、私は遺跡に侵入した。

 

 遺跡内は黄金の光に包まれていた。東京ドーム内ほどの広大な空間を構成する壁や、床や、天井といった全ての要素が黄金で構成されているのだ。そしてなにより驚いたのは、遺跡内に人類の歴史が始まって以来すべての遺産物が黄金となって保管されていたことだった。黄金の自由の女神像、黄金のピラミッド、黄金の戦闘機…。当然、私の大好きなゲーム機や漫画本もあった。

 人類の歴史は黄金となり、永遠にここに残り続けるのだ。そう理解した時、私の足が力尽き、立っていられなくなった。私は腰を下ろして壁に背を預けた。眼前には人類が生み出し、破壊してきたもの全てが広がっている。まさしく「黄金都市」だ。そんなことを思いながら、私はいつまでも黄金の景色を眺めていた。

 

 ふと目線を下げると、消えたはずの両腕が黄金となって蘇っていた。やがて全身が黄金となり、私もまたここに遺り続けることになるのだろう。眠気がやってきた。終わりを迎えることに恐怖はなかった。私の心は充実感で満たされていた。

 

 

 

 

終わり

20200511に見た夢