無職の夢日記

夢日記

竜と化して労働中の自分をビルから飛び降りさせる夢

☆夢の結末☆

・私は竜となってこんな世の中から逃げ出すことができた。

・私はビルから飛び降りて地面に叩きつけられた。

 

 

☆夢の内容☆

 池袋駅前の水溜りの中で私は産まれた。

 雨と、排気ガスと、道行く都会人が捨てたゴミが混ざり合った、澱んだ水溜まりであった。

 産まれたばかりの私は10円玉ほどの大きさしかなく、濁った水に隠れるほかなかった。手も足もないオタマジャクシのような姿形をした私は、自力で餌を捕まえることも出来ず、水面に浮かぶ煙草の吸殻のカスを食み、飢えを凌ぐことしかできなかった。

 

 私は水溜まりから出ようとしなかった。水溜まりの外には敵がいるからだ。敵とは、駅前を忙しなく行き交う人間のことである。より正確に言うならば、その人間たちが生み出す「日常」が、私にとっての敵であった。

 朝早くに起床し、出勤し、ストレスを溜め込みながら仕事をし、明日に絶望しながら寝床に着く。

 そんな「日常」が私の敵なのだ。その、逃れようもない現実から逃げるために、私はこの濁った水溜りに隠れているだった。

 

 産まれてから何日か経つと、私の体は成長し、2リットルのペットボトルほどの大きさになっていた。腕と脚も生えた。水溜りにやってきたカエルを捕まえて食べられるようにもなっていた。カエルはゴムのような食感だった。鶏肉みたいな味で美味しかったのを覚えている。

 

 体が大きくなり、水溜まりに隠れることが難しくなったある日、私はカラスに襲われた。急な襲撃であった。私が外の様子を見ようと水溜りから頭を出した瞬間、鋭利なクチバシが襲いかかってきたのである。私の頭部に、腕に、脚に、激痛が走った。血液が流れ、水溜まりに溶けていくのが見えた。私は反撃することもできず、頭部を守るために胎児のように身を丸めることしかできなかった。

 通勤時間帯になり、人間たちがやってくるとカラスたちは去っていった。血だらけの私はしばらく動かずにその場でぐったりしていたが、このままだと今度は人間に見つかると思い、身を水の中に沈めた。カラスや人間に怯えなくても良い、強い肉体が欲しい。私はそう願いながら、気を失った。

 

 目覚めると私の体は大型の虎ほどの大きさに成長していた。昨日まで身を隠していた水溜まりは、私の膝下までの深さしかなく、とても隠れることなんて出来なくなっていた。

 体の傷はすっかり治っていた。それどころか、全身の皮膚は硬くなり、肩には角のような突起物が生えていた。既に日は昇り、人間たちが道を行き交っていたが、私が彼らを恐れることはなかった。不健康な蒼白な顔面でゾンビのように職場へ向かう人間たちを、強靭な肉体を持つ私がどう恐れればよいのだろうか。か細いスーツ姿の人間なんて、私がちょっと小突けばいとも容易くミンチとなるだろう。

 

 そんなか弱い人間たちの中で、より一層細くて生命力のない者を見つけた。私はどこか見覚えのあるその人間が気になって、後を追うことにした。その人間は私のよく知る電車に乗り、私のよく知る駅で降りた。駅から少し歩くとオフィスビルが見えてくる。いろんな会社が入った、特別綺麗でもなければ新しくもない、どこにでもあるようなつまらない建物だ。人間がエレベーターに入るのを、私は建物の外から見ていた。人間が5階のボタンを押すことは見なくてもわかっていた。

 私は建物の5階に向かった。警備員がいるため、私のような獣が建物に入ることはできない。階段もエレベーターも使えないのなら、飛ぶしかない。そう思ったときには私に翼が生えていた。肩口から生えていた角が成長し、身の丈ほどの大きさの翼になったのだ。私は肩に力を入れた。翼が空気を叩く。あたりに風が舞う。コンクリートの地面が揺れる。翼をはためかせる度に私の体はより硬く、しなやかになっていった。建物のガラスに写る自分の姿が竜と化していると認識した瞬間、私は飛んだ。

 

 建物のガラス越しに中の様子を覗くことができた。先ほどの人間がキーボードを叩きながら電話対応をしていた。そいつがなにをしているのか、私には手に取るようにわかった。クレーム客の対応をしているのだ。怒鳴り声を浴び、精神をすり減らしながら。竜になる前の私がそうだったように。

 

 その人間は私だった。見覚えがあるのは当たり前だ。その痩せこけた顔も、枯れ枝のように細い体も、死んだような瞳も全て私のものだ。私は、そんな生きているのか死んでるのかわからない日常から抜け出したくて、竜になったのだ。

 

 私は外から建物のガラスを叩いた。人間がこちらに気づく。死んだような顔をしたその人間は、受話器を持ったまましばらくこちらを眺めていた。私はそれ以上のことはなにもしなかった。きっかけは与えた。その後のことは、人間が決めるだけだ。私はそのまま翼をはためかせた。もうこんな世界に居続ける理由はない。竜は天へと昇るだけだ。

 

 はるか下で、ガラスの割れる音がした。その後すぐに破裂音が響いた。人間が地面に激突したのだろう。

 

 

 

終わり