無職の夢日記

夢日記

メグという犬

 夢の中の私はメグという名の犬を飼っていた。

 大型犬だった。全身が白くて柔らかい毛に覆われた、穏やかな表情をした犬だった。

 メグは私が赤ん坊の頃からずっと側にいた。ネグレクト気味の親に代わって、彼女はいつも私を見守ってくれていた。親のような存在だったし、メグも私のことを自分の子供のように愛してくれていたと思う。

 

 夢の中の私は小学生だった。学校から帰ると一目散にメグのもとへ向かい、ランドセルを背負ったまま彼女に抱きつくのが日課であった。柔らかい体毛が私の顔を撫でる感触と、メグの陽だまりのような匂いを今でも覚えている。

 メグを散歩に連れて行くのは私の役目であった。毎日学校終わりの午後に、大きな水筒を持って出かけるのだ。目的地は近所の公園である。公園には広い運動場があった。私とメグはいつもそこでクタクタになるまで走り回るのだ。

 

 外は夕方だった。夕焼けが住宅地をオレンジ色に染めていた。シチューの匂いが辺りを漂っていたのを覚えている。幸せな匂いだった。

 公園に着くと私は水筒の水を飲み、メグには公園の水道の水をやった。私が蛇口を捻るとメグは喜んで水を飲むのだ。私はメグの喜ぶ顔が大好きだった。メグの頭を撫でると彼女はこちらを向いてニッコリと笑った。夕陽に照らされた彼女の笑顔は、現実世界では見ることのできない、どこまでも無垢な笑顔であった。

 

 散歩から帰ると、私とメグは自室のベッドに飛び込んだ。メグのお腹に抱きつきながら眠りにつくのだ。暖かく、シルクのような柔らかい感触が私を包み込む。明日は休日だ。起きたらメグと一緒にご飯を食べるのだ。朝の子供向けのアニメをメグと見ながら、カリカリのトーストにいちごのジャムをたくさん塗ってかぶりつくんだ。その後はまた公園に行こう。今度はボールを持っていって、メグと目一杯遊び尽くすんだ。

 

私が大人になったとき、メグはもう死んでしまっているのだろう。

 

 ふと、そう感じた。恐らく、今この瞬間が夢の中だと私が認識し始めたのだろう。目が覚めたとき、メグは私の側から居なくなってしまう。何故なら、現実世界にメグは存在しないのだから。

 私はなんだか悲しくなってメグにぎゅっと抱きついた。メグは何も言わずにただ私の頭を撫でてくれた。

 

 

 夢から目覚めた後も、メグがそこにいる気がしてならなかった。

 

 

終わり

竜と化して労働中の自分をビルから飛び降りさせる夢

☆夢の結末☆

・私は竜となってこんな世の中から逃げ出すことができた。

・私はビルから飛び降りて地面に叩きつけられた。

 

 

☆夢の内容☆

 池袋駅前の水溜りの中で私は産まれた。

 雨と、排気ガスと、道行く都会人が捨てたゴミが混ざり合った、澱んだ水溜まりであった。

 産まれたばかりの私は10円玉ほどの大きさしかなく、濁った水に隠れるほかなかった。手も足もないオタマジャクシのような姿形をした私は、自力で餌を捕まえることも出来ず、水面に浮かぶ煙草の吸殻のカスを食み、飢えを凌ぐことしかできなかった。

 

 私は水溜まりから出ようとしなかった。水溜まりの外には敵がいるからだ。敵とは、駅前を忙しなく行き交う人間のことである。より正確に言うならば、その人間たちが生み出す「日常」が、私にとっての敵であった。

 朝早くに起床し、出勤し、ストレスを溜め込みながら仕事をし、明日に絶望しながら寝床に着く。

 そんな「日常」が私の敵なのだ。その、逃れようもない現実から逃げるために、私はこの濁った水溜りに隠れているだった。

 

 産まれてから何日か経つと、私の体は成長し、2リットルのペットボトルほどの大きさになっていた。腕と脚も生えた。水溜りにやってきたカエルを捕まえて食べられるようにもなっていた。カエルはゴムのような食感だった。鶏肉みたいな味で美味しかったのを覚えている。

 

 体が大きくなり、水溜まりに隠れることが難しくなったある日、私はカラスに襲われた。急な襲撃であった。私が外の様子を見ようと水溜りから頭を出した瞬間、鋭利なクチバシが襲いかかってきたのである。私の頭部に、腕に、脚に、激痛が走った。血液が流れ、水溜まりに溶けていくのが見えた。私は反撃することもできず、頭部を守るために胎児のように身を丸めることしかできなかった。

 通勤時間帯になり、人間たちがやってくるとカラスたちは去っていった。血だらけの私はしばらく動かずにその場でぐったりしていたが、このままだと今度は人間に見つかると思い、身を水の中に沈めた。カラスや人間に怯えなくても良い、強い肉体が欲しい。私はそう願いながら、気を失った。

 

 目覚めると私の体は大型の虎ほどの大きさに成長していた。昨日まで身を隠していた水溜まりは、私の膝下までの深さしかなく、とても隠れることなんて出来なくなっていた。

 体の傷はすっかり治っていた。それどころか、全身の皮膚は硬くなり、肩には角のような突起物が生えていた。既に日は昇り、人間たちが道を行き交っていたが、私が彼らを恐れることはなかった。不健康な蒼白な顔面でゾンビのように職場へ向かう人間たちを、強靭な肉体を持つ私がどう恐れればよいのだろうか。か細いスーツ姿の人間なんて、私がちょっと小突けばいとも容易くミンチとなるだろう。

 

 そんなか弱い人間たちの中で、より一層細くて生命力のない者を見つけた。私はどこか見覚えのあるその人間が気になって、後を追うことにした。その人間は私のよく知る電車に乗り、私のよく知る駅で降りた。駅から少し歩くとオフィスビルが見えてくる。いろんな会社が入った、特別綺麗でもなければ新しくもない、どこにでもあるようなつまらない建物だ。人間がエレベーターに入るのを、私は建物の外から見ていた。人間が5階のボタンを押すことは見なくてもわかっていた。

 私は建物の5階に向かった。警備員がいるため、私のような獣が建物に入ることはできない。階段もエレベーターも使えないのなら、飛ぶしかない。そう思ったときには私に翼が生えていた。肩口から生えていた角が成長し、身の丈ほどの大きさの翼になったのだ。私は肩に力を入れた。翼が空気を叩く。あたりに風が舞う。コンクリートの地面が揺れる。翼をはためかせる度に私の体はより硬く、しなやかになっていった。建物のガラスに写る自分の姿が竜と化していると認識した瞬間、私は飛んだ。

 

 建物のガラス越しに中の様子を覗くことができた。先ほどの人間がキーボードを叩きながら電話対応をしていた。そいつがなにをしているのか、私には手に取るようにわかった。クレーム客の対応をしているのだ。怒鳴り声を浴び、精神をすり減らしながら。竜になる前の私がそうだったように。

 

 その人間は私だった。見覚えがあるのは当たり前だ。その痩せこけた顔も、枯れ枝のように細い体も、死んだような瞳も全て私のものだ。私は、そんな生きているのか死んでるのかわからない日常から抜け出したくて、竜になったのだ。

 

 私は外から建物のガラスを叩いた。人間がこちらに気づく。死んだような顔をしたその人間は、受話器を持ったまましばらくこちらを眺めていた。私はそれ以上のことはなにもしなかった。きっかけは与えた。その後のことは、人間が決めるだけだ。私はそのまま翼をはためかせた。もうこんな世界に居続ける理由はない。竜は天へと昇るだけだ。

 

 はるか下で、ガラスの割れる音がした。その後すぐに破裂音が響いた。人間が地面に激突したのだろう。

 

 

 

終わり

仕事で精神病んで死を選びかけるけど、ポケモンと一緒に死者の国から逃げ出す夢

☆夢の結末☆

・私は死にたくない

・ありがとうポケモンたち

 

☆夢の内容☆

 私は夜の学校を歩いていた。灯は無く、月光だけが暗闇を妖艶に照らしていた。

 

 古い学校だった。廊下の窓ガラスはほとんど割れており、差し込む月の光が空気中の埃を照らしている。息を吸い込むたびに埃のにおいが鼻孔をくすぐった。床は歩くたびにギシギシと軋み、そこら中穴だらけだった。私が何階に居るのかはわからないが、廊下の穴はどこまでも深く、まるで深淵に続いているようであった。

 私は穴の中を覗き込んだ。明度の一切ない、どこまでも暗い闇の中に、なにかが見える。瞳だ。無数の瞳が蠢き、そしてこちらを向いたのだ。てらてらと光るおびただしいほどの数の眼球が自分をじっと見つめる光景は、いささか気持ちの悪いものであった。しかし、私が瞳たちに恐怖を覚えることはなかった。

 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているとかなんとか

 私が廊下の穴を覗いたから、穴の中の「なにか」も私を覗いたのだ。つまるところ、私が穴を覗かなければなにも起こらないということだ。わざわざ臭いものを嗅ぎに行くことはない。私はそっと穴から離れた。

 

 どこまでも続く薄暗い廊下を歩き続け、やがて歩き疲れた頃、私はついに月明かり以外の光を見つけた。教室だ。扉のすりガラスから、どこか懐かしい蛍光灯の光が漏れているのだ。

 私が扉を開けると、現代的な教室の風景が広がっていた。真っ白な壁と天井、ピカピカに磨かれた床、プラスチック製の机。先ほどまでの古びた廊下とは比べようも無いほど綺麗な光景だった。

 しかし、その綺麗でピカピカな教室に問題があることは目に見えて明らかであった。行儀良く座席に座る生徒が全員、人ではない「なにか」なのだ。彼らは確かに人の形をしていたが、全身が黒いもやのようなもので構成されていた。さながら自我を持った影が、地面から抜け出してきたようであった。

 扉の開く音に反応し、影たちが一斉にこちらを向いた。彼らに顔はなかった。漆黒で不定形な頭部がこちらをじっと見つめる。彼らは死者だ。ここは死後の世界で、私は彼らの領域を侵してしまったのだ。誰に言われるでも無く、私はそう感じた。そしてそれは正しかった。ここは死者の国なのだ。

 影たちは私を歓迎しているようであった。教室の端の空いている席を指差し、「君の席だ」とひどく不愉快な声で私に案内した。私は死者になるのも悪くないと感じていた。というのも、この夢を見た頃の私は現実世界で精神を病んでおり、自暴自棄になっていたのだ。

 私は影たちの誘導に従い、席に着いた。窓側の、一番後ろの席だった。外を見るとグラウンドが夕闇の青に染まっていた。人は一人もいなかった。ここは死者の国なのだから、生きている人間がいるほうがおかしいのだ。

 そう思った時、私の体も黒い影になりかけている事に気付いた。両手が黒いもやもやで覆われている。もやもやは手のひらから腕に、肩に、そして全身に広がっていった。ガラスに写る自分の顔を見ると、影たちと同じく、表情のない漆黒の頭部がそこにあった。

 私は死にたいのだろうか。影となった自分の姿を見ながら私は考えた。確かに私は現実世界で辛い目にあい、精神を病んでいる。鳴り響く電話に出て、クレームを受け、怒鳴られ続ける生活に絶望している。そんな生活に耐えきれない。だから私は死にたいのか。

 

 答えはNOだ。私が何よりも恐れているのは死だ。そんな私が死者の仲間入りを望むわけがない。私は壁に突進した。体の黒いもやもやを払おうとしたのだ。壁に衝突し、右肩に衝撃が走る。急に暴れ出した私に死者たちが驚く。私を止めようと、影たちが腕を伸ばす。

 その時、私はいつの間にか手のひらくらいの大きさの球体を握っていることに気がついた。赤と白のボール。中央にはボタンがついている。このボールには見覚えがある。幼い頃からアニメやゲームで見てきた、親しみあるそれは「モンスターボール」だった。

 私はボールのボタンを押した。すると、ボールが開き、中から何体ものポケモンが現れた。

マダツボミ」という、植物がそのまま生き物になったようなポケモンは、腕の葉っぱを振り回して影たちを追い払ってくれた。

「イオルブ」という、テントウムシに人の体がくっついたようなポケモンは、サイコパワーで私の体に残る影を取り除いてくれた。

 そして、最後に現れたのは「リザードン」という炎の龍のようなポケモンだった。リザードンは私に下がるように促すと、巨大な尻尾を壁に叩きつけた。壁は木っ端微塵になり、外への道が開かれた。私とポケモンたちは急いでリザードンの背中に乗った。逞しく、美しいリザードンの翼が大きくしなる。一回、二回と羽ばたいたと思った次の瞬間、我々は空を飛んでいた。

 埃っぽい空気から解放され、新鮮な風が私の顔を叩いた。振り返ると、影たちが崩れた壁から我々を見ていた。顔が無いから彼らがどんな表情をしていたのか、どんな気持ちだったのかはわからない。しかし、なんとなく、彼らもこの世界から抜け出したがっているように思えた。

 リザードンは空へ空へと向かって飛び続けた。死者の世界から抜け出し、元の世界に帰るのだ。下を見ると、学校の校舎やグラウンドは消え去り、代わりに深海がそこに広がっていた。どこまでも深く、暗く、だけどどこか優しい漆黒の海。

 私が死んだ時、またこの光景を見ることになるのだろう。なぜなら、死者の国は他の誰でもない、私の頭の中にあるのだから。

 

 

 

 

終わり

 

 

仕事の面接を受けて働きたくないと思う夢

☆夢の結末☆

働きたくない気持ちが1000倍に膨らんだ

 

☆夢の内容☆

 私は都内の高層ビルの前に立っていた。大手会社の超高層ビルだ。入り口のガラスはピカピカに磨き上げられており、清潔な労働環境が整えられていることが伺えた。これから私は無職生活から抜け出し、真人間となるべく、会社の面接を受けるのだ。ピンクのスーツと黄金に煌めくネクタイを身につけていた気がする。そんな格好で面接に受かるわけがないと今になって思う。

 

 ビルの中に入ると、受付が目の前に現れた。受付には人間の代わりにペッパー君(ソフトバンク社の人型ロボット)がいた。感染症対策のため、対人業務は全てペッパー君が行なっているとのことだった。

 ペッパー君は私に書類を差し出した。私のプロフィールを書く用紙だった。面接を受けるにあたって必要らしい。私は名前、年齢、職歴などを記入していった。

 ペッパー君との会話は弾んだ。私の前職についての話や、この会社の業務内容について話した。ペッパー君曰く、私が入ることになる部署の業務は一日中ゲームをすることらしい。「えっ、それって凄く楽じゃないですか」と聞くと、ペッパー君はニヤリと笑い「そうだよ。凄く楽だよ」と答えた。私はなんとしても面接に受かってやると決心した。

 

 面接はとてつもなく大きな部屋で行われた。学校の体育館ほどある空間の真ん中に机が置かれ、私と面接官は向き合った。面接官は白髪のお爺さんだったが、目つきは鋭く、その場の空気をピリピリとした緊張感のあるものに変える雰囲気を持っていた。

「4月に仕事を辞めて以来、今まで何をしていたんだ」

 面接官はまず、私の無職期間について聞いた。責めるような、強い語調だった。私は正直に答えた。

「鬱で前職を辞めて以来働く気にならず、だらだらと過ごしていました」

 

 私は面接官の反応を伺った。しかし、白髪頭のジジイは私の言葉に対して全くのノーコメントであった。自分から質問してきた癖になんて奴だ!と私はイライラしていた。

 「前職で自分が成長できた業務はなにか」

 私の内心を知ってか知らずか、ともかく面接官は質問を続けた。実際の面接でもありそうな質問だなあと思った。

「子供たち相手にセミナーをする業務が、自分の成長を1番実感できました。なぜなら…」

 私は自信満々に答えた。夢の中の私は、100点満点の回答をしたという自信を持っていた。ドヤ顔もしていたと思う。面接官は私を睨め付けたまましばし黙ったあと、口を開いた。

「…でやったのか?」

 面接官の声は小さく、言葉の最初の方が聞き取れなかった。申し訳ございません、もう一度よろしいでしょうか。私は謝りながら聞き返した。

「だから!…でやったのか?」

 私は頭を抱えた。どうしても言葉の一部が聞こえないのだ。二度聞き返すのはよろしくないと思ったが、仕方なく、私は「セミナーをどこでやったのか?という質問でよろしいでしょうか」と確認した。

「違うよ!なにを言ってるんだ君は!」

 面接官は私の言葉に怒り、机を思い切り叩きつけた。面接官の声が今度ははっきりと聞こえた。そっちの声が小さいから何度も聞き返すはめになったんですよ、とは言えずに私は小さくすみませんと謝罪した。

 面接官は机に足上げ、腕を組み、タバコを吸い始めた。どうやらもう面接を続ける気はないようであった。

 

 やっぱり労働はしたくないなあと思った。

 

 

 

終わり

2020年9月7日に見た夢

 

崩壊した世界で橋をかける夢

☆夢の結末☆

使命を果たし、人類の歴史とともに眠る

 

☆夢の内容☆

 淡いパステルブルーの海中で、私は目覚めた。誰人にも汚されたことのない、どこまでも透き通る美しい水の煌めきが視界いっぱいに広がっていた。

 

 見渡すと、海の底に薔薇が咲いているのが見えた。青い薔薇だった。自然界では決して生まれることのない青い薔薇。人類が遺伝子操作によって生み出した歪な生命。海底に沈んだそれを見て、私はとうに人類が滅んでいることを思い出した。

 

 体がだんだんと海に溶けていく。海水の温度と私の体温がまったく同じせいだ。自分の体と水の境界線がわからなくなる。もはや、私には上下左右の感覚もなくなっていた。

 ふと、私の顔の前を泡が横切っていった。水中に放出された空気の塊が泡となり、空へ行こうと上へ上へと登っているのだ。私は泡を追って泳ぎ始めた。海から生まれた生物たちはやがて大地を目指す。私は生命の進化の追体験をしているだった。

 

 海面に顔を出したその瞬間、世界が広がった。見上げると、雲ひとつない青空がどこまでも広がっている。海上に景色を遮るものはなにもない。どこまでも続く海の先に水平線が見えた。

 振り返ると、すぐ先に陸地を見つけた。真っ白な砂浜が太陽の光を反射して眩しく光り輝いている。あそこへ向かわなければならない。あそこへ行き、使命を思い出さなければならない。私は誰に言われるでもなく、そう感じた。

 

 海から上がり、砂浜へ降り立つと心地よい風が体を撫でた。太陽の優しい光が濡れた体を照らし、心地よかった。

 砂浜にはなにもなかった。いかなる生物の気配もなく、寄せては返す波の音が一定のリズムで響き続けるだけであった。

 海とは反対方向の、陸地の方を見やるとなだらかな丘が続いていた。丘は青い芝生に覆われている。背の高い植物はなく、見晴らしが良い。砂浜の純白と芝生の緑のコントラストがとても綺麗だった。

 

 丘の先に、私の使命がある。

 

 丘を進んでいくと、巨大な崖が現れた。対岸まで数百メートルはある巨大な崖だった。崖には橋がかかっていたが、途中で崩れている。橋の、崩れているところまで行くと、大人くらいの大きさの石が置いてあった。墓石である。

 所々崩れ、苔で覆われたその姿から、何世紀も前に置かれたものだということがわかる。私は墓石の前に写真が置いてあることに気づいた。写真を見ると、軍服の青年が険しい表情で写っている。その顔には見覚えがあった。その青年は私自身であった。

 

 私の使命は崩れた橋を蘇らせることだった。

 

 私は墓石の前に座り、座禅を組んだ。頭の中で、崩れた橋の断面から大樹が生えてくる映像を強くイメージした。すると、橋の断面から小さな木の根が生えてきた。木の根は実にゆっくりと対岸に向かって伸びていった。私は座禅を組んだまま歯を食いしばり、体の全エネルギーを木の根に注ぐイメージをした。私の生命力を木の根に注いでいるのだ。私の体から力が抜けていくにしたがって、木の根はどんどんと成長し、大樹となり、向こう岸へと伸びていった。

 疲労で私の体が他に伏せ、動けなくなったころ、ついに大樹は向こう岸にたどり着いた。橋が完成したのだ。私は使命を果たしたのだ。墓石の写真を見ると、先ほどまで険しい表情をしていた青年はいなくなっていた。

 

 私は橋の向こうへ向かった。重い脚を引きずり、橋の上を歩いた。大樹は頑強で、私ひとりが渡ったところで微塵も揺れることはなかった。ふと、下を覗くとはるか遠くに海が見えた。橋の標高がとてつもなく高いのだ。しかし、落ちて海面に叩きつけられる恐怖はなかった。私の体は既に消えかけ、じきに完全に消えてなくなることがわかっていたからだ。仮に落ちたとしても、海に叩きつけられる前に私の体は霧散して消えていくだろう。

 

 対岸にたどり着くと、湖が広がっていた。綺麗な湖だった。透明性の高い、エメラルドグリーンの水面が揺れている。水中を覗くと当然のように、底に青い薔薇が咲き乱れていた。

 湖の中央には遺跡があった。一軒家ほどの大きさの建物が、水面の上に直接建っているような格好である。私はそこに向かうことにした。そこで人生の終わりを迎えることにしたのだ。

 湖に入る時、自分の体の異常に気がついた。いつの間にか、両腕が無くなっていたのだ。私はショックを受ける代わりに小さく笑った。失笑でも冷笑でもない。使命を果たした達成感からの笑顔であった。

 遺跡の外壁にたどり着くと、一部、崩れている箇所を見つけた。瓦礫の間からは光が漏れていた。黄金の光だ。今まで見てきた海や草木の輝きとはまるで違うギラギラとしたその光に、懐かしい人間の俗っぽさを感じた。瓦礫をどかし、私は遺跡に侵入した。

 

 遺跡内は黄金の光に包まれていた。東京ドーム内ほどの広大な空間を構成する壁や、床や、天井といった全ての要素が黄金で構成されているのだ。そしてなにより驚いたのは、遺跡内に人類の歴史が始まって以来すべての遺産物が黄金となって保管されていたことだった。黄金の自由の女神像、黄金のピラミッド、黄金の戦闘機…。当然、私の大好きなゲーム機や漫画本もあった。

 人類の歴史は黄金となり、永遠にここに残り続けるのだ。そう理解した時、私の足が力尽き、立っていられなくなった。私は腰を下ろして壁に背を預けた。眼前には人類が生み出し、破壊してきたもの全てが広がっている。まさしく「黄金都市」だ。そんなことを思いながら、私はいつまでも黄金の景色を眺めていた。

 

 ふと目線を下げると、消えたはずの両腕が黄金となって蘇っていた。やがて全身が黄金となり、私もまたここに遺り続けることになるのだろう。眠気がやってきた。終わりを迎えることに恐怖はなかった。私の心は充実感で満たされていた。

 

 

 

 

終わり

20200511に見た夢

魔法のホウキに乗ってテロを阻止する夢

☆夢の結末☆

・身を削って他人を助けても賞賛されるとは限らない。

・他人からの評価よりも大切なことはある。

 

☆夢の内容☆

 夜のラスベガスでテロが起こった。スクールバスがテロリストにジャックされたのだ。ネオン煌めく夜の街を、スクールバスが暴走する。一般車両の合間を縫ってバスとパトカーが猛スピードでカーチェイスする様を、私はテレビの画面越しに見ていた。

 

 バスの乗客を助けなければならない。夢の中の私は正義感に燃えた。私は側にいた清掃員のおじさんから箒を借りると、それに跨り、宙に浮いた。ハリーポッターが箒に乗る映画のワンシーンが思い出される。箒はゆっくりと前に進み、道路に侵入すると、どんどんと加速していった。やがて、風が頬を叩くほどのスピードなったとき、このままでは車にぶつかることに気づいた。

 車両が前方から迫りくる。私は慌てて箒を操作した。体をめいいっぱい横に倒し、間一髪車とすれ違う。背後から「危ないじゃないか!」と声がする。このままでは他の車と衝突するのも時間の問題だ。私は上昇するべく箒を上に引っ張ってみたが、箒はうんともすんとも言わず、ただ真っ直ぐに進んでいくだけであった。

 私は一か八かの賭けにでた。懐からダイナマイトを取り出し、爆風で上昇しようとしたのだ。ダイナマイトに火をつける。「爆発するぞ」と私が叫ぶと、辺りの車はさっと私から離れていき、通行人は物陰に隠れていった。これでは誰がテロリストかわからない。ともかくダイナマイトは爆発した。爆風を受け、箒が上方向に飛んでいく。箒はぐんぐんと上昇していき、さっきまで飛んでいた道路がみるみる小さくなっていった。

 雲の高さまでいったところで、はるか前方に爆走するバスを発見することが出来た。バスは高速道路を走っていた。私が力を込めると、箒の先が爆発し、猛スピードでバスに向かっていった。

 

 暴走するバスの横に着くと、窓から中の様子が見えた。小さな子供たちが窓を叩いている。その表情は恐怖に怯えており、私は一刻も早く助けなければならないという思いに駆られた。

 私は子供たちに窓から離れるようジェスチャーをした。そして一旦バスから距離を取り、反動をつけ、一気に窓へ体当たりした。ガラスに激突した瞬間、右肩に大きな衝撃を受けたのを覚えている。恐らく現実でも体が動き、壁にでも衝突したのだろう。

 バスの中に転がり込むと、すぐにテロリストが私に襲いかかってきた。ドクロのマスクで顔をすっぽりと隠した、大柄な男だった。テロリストは身長ほどの大きさの刀を持っており、躊躇なくそれを私に振り下ろしてきた。私はとっさに腕を前に出し、刀を受けた。腕に痛みが走った。腕がもげることも、流血することもなかったが、確かに刀が腕を叩く感覚が私を襲った。テロリストが再度攻撃を仕掛けてくる。今度は突き攻撃だ。私の心臓に向かって真っ直ぐに刀が迫ってくる。胸に激痛が走った。鈍痛だった。しかし心臓を刀で貫かれても私は死ななかった。胸に刀が突き刺さったまま、私はテロリストの腕を掴んだ。テロリストが動けなくなる。私はバスの乗客にテロリストを押さえつけてくれと頼んだ。子供たちが、わっとテロリストに襲いかかる。子供たちのパンチやキックはポカスカという擬音が出ていて、とても痛そうな攻撃には見えなかったが、テロリストは頭を抱えてうずくまった。そして、間もなく「もう降参だ。許してくれ!」と降伏した。

 

 バスが高速道路の路肩に停車する。バスから降り、上を見上げると青空が広がっていた。テロリストは警察に連行されていった。埼玉県警のパトカーに押し込まれるテロリストの姿が印象的だった。

 マスコミが集まってきた。マスコミはまったく私に関心を示さず、救出された子供たちにカメラとマイクを向けていた。「バスジャックされた今のお気持ちは?」というキャスターの質問に、子供は「警察の初期動作が遅いよね」と答えていた。私に関心を持つものは誰一人としていないようだった。

 

 私は箒に跨ってその場を去った。あっという間に上昇して、バスや子供たちが米粒ほどの大きさになっていく。箒の上で風を感じていると、子供たちを助け出したことも、テロリストと戦ったことも、もはやどうでもよくなった。澄んだ青空を自由に飛べることが、ただただ嬉しかった。

 

 

終わり

もう働かなくていいんだと安堵する夢

☆夢の結末☆

退職したことを実感した。

 

☆夢の内容☆(2020年4月2日、退職直後に見た夢)

 私は夢の中で夢を見ていた。怖い夢だった。寝ている私の横で、知らないおっさんが延々と怪談をするのだ。「シャワーを浴びている自分の背後から女の人が襲ってくる話」や、「街中で自分以外の人間がみんなエイリアンになっている話」をされたのを覚えている。おっさんは真っ暗な部屋の中、私の耳元で囁くように話していた。

 それらの怪談は現実で実際に起こるのだとおっさんは言った。私は恐怖した。「これは夢なのだから現実に起こることはない」と何度も自分に言い聞かせて、私は毛布にくるまり、ギュッと目をつぶった。

 

 怖い夢から覚醒してもなお、私は夢の中にいた。目覚めた場所は見覚えのない部屋だった。薄暗く、埃っぽい部屋。観葉植物が飾ってあったのを覚えている。虹色に輝く葉っぱを持つ植物だった。ソファで横になっていた私はぼんやりとその植物を眺めた。今が夢なのか現実なのか判断できずにいた。

 そんな私に女性が声をかけてきた。見覚えのある女性だった。辞めた会社で一緒に働いていたおばちゃんだ。彼女は私に「遅刻するよ」と言いながら、ペットボトルの中の水を床に捨てていた。

 捨てられた水は床に溜まっていった。やがてそれは水たまりになり、ゆっくりと大きく、深くなっていった。水たまりはどこまでも澄んでいた。覗いてみるとそこには海の景色が広がっていた。深い青の中にサンゴ礁を見つけたのを覚えている。とても、綺麗だった。

 

 おばちゃんは私に向かって「早く行かないと遅刻しちゃうよ」と叫んだ。彼女は玄関の扉を開け、私を手招きしていた。外にバスが停まっているのが見える。

 

 私はソファから立ち上がった。バスに乗って、会社に行こうとしたわけではない。私は玄関とは反対方向に走りだした。床を蹴ると、部屋の埃が舞い上がった。

 目と鼻の先にガラス窓が見えたと思った瞬間、強い衝撃が私を襲った。窓に衝突したのだ。窓を突き破り、私の体はベランダに放り出された。粉々になったガラスがスローモーションで散らばっていく。ガラス片はキラキラと輝いていて、とても綺麗だった。

 後ろから誰かが私を呼ぶ声がする。そんなことはもう、どうでも良いことだった。私はベランダから飛び降りた。ここが高所だということは、飛び降りてから気づいた。風が私を叩く。落下していく感覚がする。落ちていく先に星空が見えた。夜空に星々が煌めいている。私は星空を目指した。ずっと落下しているうちに、私は空を飛べるようになっていた。

 

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目覚めた後、現実世界でも会社に行かなくてもいいのだと理解した瞬間、私は全てから解放されたと感じ、安堵の涙を流した。

 

 

終わり